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遠州浜松「里の家」里山の暮らし

浜松市北区都田町の里山に魅せられて、森と田んぼと畑のある里山、築120年の古民家で暮らし、みやこだ自然学校をしています。
月別アーカイブ  [ 2010年09月 ] 

灯台の灯

高校時代、僕は美術部に入っていて、この時に最もたくさんの絵を描いていた。その中に灯台の油絵がある。といっても、これは世話になった先生が記念にと譲ってほしいというので贈ってしまい、今は手元にはない。御礼に広辞苑を頂いた。

その時は名古屋の港区に住んでいて、名古屋港へ時々でかけてはスケッチをしていた。とりわけ印象的だったのが、使われなくなった灯台だった。工事現場にあるようなスチールのバリケードは壊れかけていて、強風にばたばたと音を立てていた。灯台の窓は割れてベニヤ板でふさがれている。白い塗装もところどころ剥げて、錆が流れて赤茶色になっていた。暗雲が生ぬるい風に低く流れ、海の波も高まりつつあって、しぶきを上げていた。台風の直前にスケッチした記憶だ。この記憶は今も身体の感覚が覚えている。

そのスケッチを元に油柄を仕上げたのだが、ひとつの思いがあった。使われなくなった灯台が嵐を迎えようとしている。大切な役目を終えてもなお、そこに立っている。そこに強い意思を感じていた。そして、灯台を再び灯したい。僕はそんな人生を送りたいと思ったのだ。清々しい海風が吹く昼でも、霧が立ち込めて方向を見失う夜でも、人生の旅人たちが灯台を見つけて安堵する。僕のしていることは、ささやかなものだが、それでもないよりはずっとましだと思っている。幸い、僕が灯した灯台を目印にしてくれる人たちが増え、時に灯台守の手伝いもしてくれるようになってきた。その中からきっと、いつか灯台守になってくれる人が現れるに違いない。灯台の灯を消してはならないと。それまで僕は根気よく待ち続けていくことを決めた。自分のためだけに生きるのは僕には似合わない。
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[ 2010/09/26 00:14 ] 未分類 | TB(0) | CM(1)